バイト先の店長をパワハラで訴えることは可能?それとも…
バイト先などで、店長のような、その店での最高責任者によるパワハラを受けたことがあるといった体験談は、枚挙に暇がありません。
そして、そうした体験をした人に対し、「じゃあ訴えるといいのに」という言葉が投げかけられるという図もよく見かけます。
しかし、口で言うのは簡単ですが、実際に訴えることが出来るのか、そして訴えることにより受けた苦痛に対する補償が受けられるのかというと、決して簡単なことではありません。
では、パワハラを受けてしまった時は、結局、泣き寝入りするしかないのでしょうか?
このページの目次
バイト先で店長にパワハラを受けている…訴えることは可能?
パワハラ、という言葉が世間一般に浸透して久しいですが、職場でのパワハラの定義について、一度整理しておきましょう。
パワハラ、つまりパワーハラスメントは『”職場内で優位性”を持つ人間が、自分の立場が上であることを理由として、”業務の適正な範囲”を越えた苦痛を部下に与える行為』を指します。
職場内での優位性、”上の立場から下の立場”に焦点が向きがちですが、同僚間、先輩後輩といった間でも起きることであり、部下から上司へのパワハラも存在します。
つまり「新しく赴任してきた上司に対し、その職場に長く在籍する部下が行う嫌がらせ」、「専門知識を持つ後輩が、その知識を持たない先輩に対して行う嫌がらせ」も含まれます。
そして、業務の適正な範囲とは、単に不満・苦痛を感じていても、それがその業務上致し方ないものであった場合は含まれません。
「土日勤務がある職場と分かって入社したのに、土日勤務を店長から命じられて苦痛だ」という時には、パワハラにはならず、訴えることはできない、という具合です。
店長をパワハラで訴えることが出来ないケースとは?
「店長が自分に対して厳しく当たるから、パワハラで訴えたい」といった話はよく聞きますが、時に、パワハラとは認められない状況が往々にしてある、という点は、とても重要です。
先に上げたような例――例えば、サービス業のような職種で、バイト募集の要項に「土日を含む勤務が可能な人」という但し書きがあり、それを確認した上で雇用契約書にサインをしたのに、いざ土日の出勤を強要されて「パワハラだ!」と訴えることは出来ません。
また、急用などで急な遅刻や欠勤が多い人が、シフト希望を出しても出勤日数を減らされる、そうしたケースも、パワハラとは言い切れなくなります。
「店長からの行為で辛い思いをしているのに?」と思うかもしれませんが、上記のようなケースは、正常かつ円滑に仕事が進められなくなることが原因だからです。
ハラスメント行為が、いくら”受け手が苦痛と感じたこと”が主体であるとは言え、元々、業務の適正な範囲での業務命令を果たせなかったことが原因になってくるからです。
パワハラで店長を訴える! しかしその”ゴール”はどこに置く?
ただ”何処から何処まで”、この線引は非常に難しいものです。
自分に、仕事上のミスは全く無い、そう言い切れる人はむしろ少なく、ちょっとしたミスならば、誰だって一度は必ずしているはずです。
そうしたミスを理由に、著しい精神的苦痛を伴う言動を店長のような上司に与えられた、そしてそれにより、うつ病などの精神疾患になった、ミスを補填するための金銭を強要された――こうしたものは、パワハラと認定されるでしょう。
しかし、いざ上司からパワハラを受けていると断定できても、訴えるとなると、話はまた別になります。
上司のパワハラを訴えるにしても、「どう訴え、何をゴールとするか」から考えなければならないからです。
パワハラを受けたことで心身に疾患が発生した場合には、傷害罪などで刑事責任を問う、つまり警察への訴えが可能になってきます。
しかし、明らかに殴られたなどの分かりやすい怪我を負わされた時でなければ、個人で警察に駆け込み、立件にまで持ち込むことは難しくなります。
そうなると、今度は民事で訴え、裁判所での判断を仰ぐことになりますが、これも、法律に詳しくない一般人は、弁護士を雇うことになるでしょう。
こうなると、もし裁判に勝って慰謝料を得られたとしても、弁護士への報酬で足が出る、というケースもあり得るのです。
パワハラをされていることを、誰に・何処に相談すべきか
もし、あなたが今、バイト先などでパワハラを受けている時は、パワハラの加害者よりも更に上の立場の人に、まず相談をすることをお勧めします。
例えばチェーン店のようなファミリーレストラン、その店長からのパワハラであったならば、大本の会社の窓口などに相談しましょう。
こうした大規模な企業では、パワハラ専門窓口などを設けていることもありますから、利用するに越したことはありません。
ましてそうした企業は、イメージを大切にしますから、それを損ねるような人間を置き続けるリスクも含め、対応に期待が持てるかもしれません。
しかし、個人店舗であり、かつその最高責任者の店長といった立場の人からのパワハラの場合は、訴える先がない、と思うでしょうがそんなことはありません。
まず、全国の労働省や労基署に、”総合労働相談コーナー”という、無料相談窓口が設けられています。こちらで相談をし、対策の助言や雇用者(ここで言う店長)への指導などの手続きが行えます。
それでもなお、問題が解決しない、そして泣き寝入りはしたくない、そんな時には、やはり弁護士への相談をすることも視野に入れましょう。
この時、上司の言動などを音声データなどで提示できるとなお良いのですが、そうしたものが用意出来ない時は、日記などを付けた上で、どんな言動をされたのかなどを説明できるようにしておくといいでしょう。
パワハラされるバイト先を辞めることは、決して逃げではない
上から人格、それまでの人生、全てを否定される言葉を投げつけられ、結果的に自分から職を諦める、そうした人は本当に多く存在します。
そうした言動を受け続けていると、いつの間にか
「自分が本当に悪いのではないか」
「自分が不要な人間だからそう言われているのではないか」
と、自分に責任があるように感じてきてしまうものです。
しかし、そもそも、雇い入れた労働者が思った通りの働きをしてくれないからといって、上司に当たる人間が言動で傷つけること――すなわちパワハラをしてもいい、というわけでは、決してありません!
パワハラの加害者は、自分を正当化するために、パワハラ行為を教育・指導だと言いはったりもしますが、それこそ大きな間違いであり、他人の尊厳を傷つける方法でしか部下を教育できない上司にこそ、問題があるのです。
そして、そうした人にやり返したい、一矢報いたい、そのために仕事を続ける人もいますが、パワハラを行う人がトップにいる限り、何かしら行動をしなければ、変わることもありませんし、加害者が気付くこともありません。
そんな時は、心や体に深い傷を負う前に辞めることも、大切な選択肢の一つです。