嘘?本当?上司に対して「お疲れ様です」は失礼にあたるのか
日本語――というより、今現在、世界中で使われている言葉というものは、どんどん成長・進化していく、まさに生き物です。
それが普通だと思っていても、実際には適さない言葉や、以前とは意味が逆転してしまった言葉などもあり、ビジネスの場ではこの言葉遣いにも十分注意しなくてはなりません。
その代表とも言えるのが「お疲れ様です」「ご苦労様です」といった挨拶の言葉。
これを上司に対して使うのは失礼だ!という意見もありますが、果たしてその真偽はどうなのでしょう?
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「お疲れ様です」が上司に失礼って本当?
職場の人に対して良く使われる言葉の中でも「お疲れ様です」は、特に使用頻度の高いものとなるでしょう。
その日初めて顔を合わせた相手に対して「おはようございます」と同様、口にしない日はない!という職場もあるでしょう。
ただ、この「お疲れ様です」という言葉は、『本来、上司に対して使うのは失礼だ』とする意見があります。
この真偽はどうなのかというと――『同じ社内の人間に対しては、目上・同僚・目下に関わらず使っても問題がない』が答えとなります。
では何故、このお疲れ様という言葉が、間違いだと”勘違い”する人がいるのかというと、2つのケースが考えられます。
○お疲れ様 は”ねぎらいの言葉”であるから、目下が目上に対して使うのは適していないと考えている
○社内ではなく社外の人に対して使うことが失礼に当たるため、目上にも使ってはいけないと考えている
前者の場合は、「ご苦労様です」というもう一つのメジャーなねぎらいの言葉と混同していることも考えられます。
上司に「お疲れ様です」は良く「ご苦労様です」は失礼な理由
まず混同しやすいねぎらいの言葉である「ご苦労様」の、何が失礼にあたるのでしょうか?
実はこの言葉も、文字の意味だけを辞書等で調べる限り、お疲れ様同様、『相手の苦労をねぎらう意味の挨拶』であり、目上・目下の立場については言及されていません。
ただ、「苦労」という言葉自体に、よく頑張ったね、という”上から目線”のニュアンスが加わってしまうため、目上の人に対して使うのは適切ではない、と言われる理由になっています。
しかも、この「苦労」を使った言葉には、ネガティブな――苦労したにも関わらず、結果が伴わなかった、という意味合いを含むものが多いため、余計に目上に対して使うべきではない、と判断されているのです。
対して、「お疲れ様です」には、このようなネガティブな意味が少なく、企業によっては社内の人間同士の挨拶の際には、必ず「お疲れ様です」と口頭や文章どちらにも枕詞としてつけるように、と指示している場合もあります。
お疲れ様です は社外の人やかなり立場が上の上司には失礼?
では、何故社外の人に対して、「お疲れ様です」という言葉が適していないのか、その理由を見てみましょう。
その理由として一番大きいのは、この言葉は、”一定の親しみのある間柄に適している”という点があるためです。
ことビジネスシーンにおいては、仕事をしている相手をねぎらっているのですから、社内では「お互い仕事を頑張りましょうね!」という意味に繋がりますが、社外の、取引先などに対して「いつもお仕事大変ですね!頑張ってください!」と声をかけるのは不自然なことがわかるでしょう。
ですから、社外の人に対して、この「お疲れ様です」とつけることは、適切ではありません。
こうした理由を踏まえた上で、例え社内の人間でも、普段から交流がないほど立場が上になる上司(例えば社長など)にも適していない、と言う人もいるのです。
では、「お疲れ様です」を使えない相手に対しては、どんな言葉を使うべきか、が問題になってきますが、
朝、初めて顔を合わせる時:おはようございます
社外の人と顔を合わせる時:お世話になっております
社外の人と別れる時:ありがとうございました。失礼致します。
などに言い換えるといいでしょう。
使ってしまいがちな失礼な言葉の代表格「了解」も注意しよう
仕事中、誰かからお願いをされた時、咄嗟に使ってしまいがちな「了解です」という言葉、これも実は、目上の人に対しては使わないほうがいい言葉だとされています。
この「了解」という言葉のそもそもの意味は「相手の言葉を理解し、”承認”する」という意味が込められています。
承認とは、上から目線でOKを出す、という意味いなりますので、例え「了解致しました」などと敬語を表す語尾を付けても意味がない、目上に対しては不適切だ、と考える人が多いのです。
ですから、了解の代わりに「かしこまりました」「承(うけたまわ)りました」「承知致しました」と言い換える必要があります。
もし、社内では誰も彼もが「了解しました」という使い方をしていても、社外の人に対しては、必ずこの言い換えが必要だと思ったほうがいいでしょう。
このような言葉は、想像以上に多く、実は知らず知らずのうちに使っていて――というケースが多々あります。
自分は完璧だ、とは思わず、一度はマナー本などでビジネス敬語について調べておくことをお勧めします。
言葉は生き物。指摘されたら柔軟に対応していこう
「お疲れ様です」を目上の人に対して使うのは不適切ではないのか、という疑問が噴出したのは、とある芸能人の発言が元でした。
しかし、その意味も、文脈全てを見てみると、決して「上司に使うことが不適切だ」という意味合いではなありませんでした。
ですから、そもそもの意味合いからして違うものですから、あまり目くじらを立てて「お疲れ様ですは、上司に対して失礼だ!」と思う必要はないのです。
もっと言ってしまえば、江戸時代などには、実は「ご苦労様です」は目下から目上に対して言う言葉であり、紆余曲折を経て現代では目上から目下に対する言葉になっています。
相手を侮蔑して呼ぶ”貴様”や”お前”ですら、元々は相手に対して敬意を込めて使われていたほどです。
(そもそもの漢字の”貴”は、地位の高さを示す言葉であり、お前も”御前”と、相手を上段に置いた呼びかけでした)
…とこのように、日常的に使われる言葉(日本語のみならず、海外のどんな言葉でも)はまさに生き物であり、進化を続けています。
ビジネスシーンで目上・客先などに使わないほうがいい、という言葉は、他にもいくつも存在しますが、10年、20年後にはどうなっているのかすら分かりません。
ですから、一通りの常識として、使っていい言葉・悪い言葉を知った後は、臨機応変、柔軟に使っていくのが正しいのではないでしょうか。